名古屋地方裁判所 昭和44年(行ウ)55号 判決 1970年7月25日
名古屋市北区上飯田通一丁目二一番地
原告
福本祥孝
右訴訟代理人弁護士
高橋淳
名古屋市北区金作町四丁目一番地の一
被告
名古屋北税務署長
清水善一
右指定代理人
中村盛雄
同
吉田文彦
同
飯田光正
同
高橋健吉
同
中山実好
右当事者間の昭和四四年(行ウ)第五五号所得税決定取消等請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件訴を却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一、当事者双方の求めた裁判
原告訴訟代理人は「被告が昭和四二年一〇月二〇日になした原告に対する昭和三九年分所得税の決定および無申告加算税の賦課決定、昭和四〇年分所得税の決定および無申告加算税の賦課決定、並びに、昭和四一年分所得税の更正および無申告加算税の賦課決定を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告指定代理人は本案前の申立として主文同旨の判決を求め、また本案に対する申立として「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。
第二、当事者の主張
(請求の原因)
一、被告は昭和四二年一〇月二〇日に原告に対し、
(一) 金二一六、〇〇〇円の昭和二九年分の所得税の決定および金二一、六〇〇円の無申告加算税の賦課決定
(二) 金四五〇、二〇〇円の昭和四〇年分所得税の決定および金四五、〇〇〇円の無申告加算税の賦課決定
(三) 金四八四、九〇〇円の昭和四一年分所得税の更正および金二四、二〇〇円の無申告加算税の賦課決定をそれぞれなした。
二、原告は右各処分に対し
(一) 昭和四二年一一月二〇日に、被告に対し異議の申立をなしたが、被告に昭和四四年四月一一日付で棄却され、同月一二日に原告営業所に右決定書の謄本の送達を受け、
(二) 同年五月一三日に名古屋国税局長に審査請求をなしたが、同年七月一〇日付で却下され、同裁決書の謄本を同月一一日に送達された。
三、第一項記載の各処分は被告が原告の所得でないものを原告の所得としたり、原告の給与所得を事業所得とし、原告に真疑を確めることもなく事実を誤認したことに基づく不当なもので取消されるべきものである。
(被告の本案前の申立の理由)
原告は、本件異議申立てに対する棄却決定の通知を昭和四四年四月一二日に受けたのであるから、国税通則法第七九条第三項により右課税処分に対する審査請求は、その翌日から起算して一月以内(昭和四四年五月一二日まで)にしなければならなかつたにも拘わらず、その期間経過後の昭和四四年五月一三日に本件審査請求をしたものであり、従つて、右審査請求は、行政不服審査法第四〇条の規定により不適法なものとして却下の裁決がなされたものである。故に本件課税処分の取消しを求める訴えは、国税通則法第八七条により適法な審査請求の前置を欠くものとして不適法であるから却下さるべきである。
(請求原因に対する被告の答弁)
一、請求原因第一項の事実は認める。
二、請求原因第二項の(一)の事実は認める。
同項(二)の事実のうち、同裁決書の謄本が同月一一日頃に送達された点は不知、その余は認める。
三、請求原因第三項は争う。
(本案前の申立の理由に対する原告の主張)
本件異議申立棄却決定は、昭和四四年四月一二日に原告営業所に送達されたものであるが、右は従業員においてこれを受領したものであつて、原告はたまたま同日右営業所に不在であり翌日右内容を了知したものである。
国税通則法第七九条第三項の「決定の通知を受けた日」とは、被処分者が該決定のあつたことを現に了知した日をいうのであつて了知しうべき状態におかれた日をいうのではない。
従つて同年四月一三日が「決定の通知を受けた日」であるからその翌日たる同年四月一四日から一月以内である同年五月一三日になした本件審査請求はなんら不適法なものではない。
第三、証拠
被告指定代理人は乙第一号証の一ないし三、第二号証の一ないし四、および第三号証を提出し、原告訴訟代理人は乙第一号証の一の成立は不知、その余の乙号証の成立は認めると述べた。
理由
一、国税通則法第七九条第三項にいう「その決定の通知を受けた日」とは、社会通念上相手方が通知を現実に了知できる客観的状態の生じた日のことを言い、必ずしもその時に相手方が現実に了知したことを要しないものと解すべきである。
二、本件事案においてこれをみるに、本件異議申立に対する棄却決定が昭和四四年四月一二日に原告方に送達されたことについては当事者間に争いはないところ仮りに当日原告がその営業所に不在であり現実にこれを受領したのが原告の従業員であつて原告本人は翌日に至つて始めてその内容を了知したものであつたとしても、右棄却決定が原告の営業所に送達されたことをもつて原告においてこれを知りうる状態におかれたものと解されるので同日をもつて「その決定通知を受けた日」と認めるのが相当である。
そうすれば本件審査請求が同年五月一三日になされたことは当事者間に争いがないのであるから、本件審査請求は国税通則法第七九条第三項の期間経過後になされた違法なものであると解され、これを却下した名古屋国税局長の処分は相当なものである。
三、よつて原告の本訴請求は、国税通則法第八七条の審査請求に対する裁決経由の訴訟要件を欠くものであるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 山田正武 裁判官 笹本淳子 裁判官 須藤浩克)